辺境地区の一小村の街道に少女は黒い鞭を手にしてたたずんでいた。 通りかかる旅のハンターに戦いを挑むために。 父親仕込みの腕に覚えはある。自分を倒せるハンターなら、吸血鬼に噛まれた喉の傷痕を消してくれるかもしれない。一度”貴族の口づけ”を受けたものは、その吸血鬼を倒さぬ限り、永久に呪われた存在になる。 少女----　ドリスは、ヴァンパイヤーハンターを探していたのだ。 西暦１２０９０年　卓抜した科学力を駆使して人類の上に君臨していた吸血鬼は、種としての滅びの時を迎えても、なお、人類の畏怖の対象であり、 ヴァンパイヤーハンターは最高の技を持つ者に限られていた。 そしてドリスが、ついに出会った。ハンターの名は”Ｄ”。旅人帽を目深に被った美貌の青年だった。 「報酬は日に３度の食事　それから・・・・・・・・あたし、好きにして」 だが、青年は冷たい口調でこう尋ねた。 「おれはダンピールだ。それでよければ」 契約は成立。ドリスに口づけした貴族”マグナス・リィ”を倒すための戦いが始まる。

辺境の村”ツェペシュ”のはずれには、特殊な防衛機構がが働いて村人の立ち入りを拒む奇怪な丘がある。 その頂きには、かつて”貴族”の居城があり、今もなお、膨大な機械装置群が残されている。だが、そこで貴族が何を実験していたか・・・ 十年前に城跡で行方不明になった子供がどういう運命を辿ったか、すべては謎のまま。 そして今、村は陽光の下を徘徊する吸血鬼の出現に怯えていた。 真相究明の為、丘に向かう村人。 「ここはひとつの文明が滅びた場所だ」錆びを含んだ静かな声が漂ってきた。「去りゆくものをとどめるのは叶わぬ技だが、失われたものに対する礼ぐらいはわきまえたらどうだ。」鍔広の旅人帽と黒のロングコートの背に優雅な長剣が単なる旅人でない青年の身分を示していた。

迫り来る狩人の眼を逃れ、若き貴族と人間の少女は懸命に６頭立ての黒馬車を進めていた。恋に落ちた二人は、かつて栄えた星間航路の宇宙港へと向かい、星々の間に旅立とうとしていたのだ。 追うハンターは、年老いた少女の父親の依頼を受けた”Ｄ”。 そしてその後を、いかなる手段を用いても狙った獲物を奪い取る兇悪無比のハンター、”マーカス兄弟”がさらに追っていた。

毎時２０kmの巡航速度で辺境の大平原の上空を滑走するその『街』は、外部との接触を一切断った、限りなく平穏な移動街区であった。住民は辺境の荒野に生きる人々がさらされる大自然の脅威とも、飢えとも、妖魔の跳梁とも無縁の生活を送っていた。 だが、『街』は今、重大な危機にさらされていた。『街』に吸血鬼が出現したのだ。依頼を受けて、Ｄは死臭のたちこめる『街』に入った。

ソノラマ文庫より

招かれた辺境の村へ向かう途中、Ｄは繰り返し一人の少女の夢を見た。 夢の中で少女はいつも、古びた館で青い光を浴びて踊っている。少女はＤが向かう村で貴族の口づけを受けて以来、３０年間眠り続けている”シヴィル”だった。 一方、村では、すべての村人がＤの夢を見、平穏な生活が崩壊される予感に身を震わせていた。 奇怪な夢の交錯を知らず、Ｄは刺客が待ち受ける村に入った。

ソノラマ文庫より